The Wizards Of Silence−第十話
一人の少年が
黒衣を大きくはためかせながら、森の中を全力疾走していた。
相棒(である魔物たちもそれに必死に追いつこうとその脚を早めていた。
先導しているのは跳躍しながら飛行しているスバメ。
森の上の方をほぼ一直線に進み、少年とその
相棒(がついて来ているかを確認しながら、
ただひたすら少女の元へと。
今あの娘には魔獣が付いていない。
それも昨日まで家にいたんだから、魔物に対する武器も構えもない無防備な格好なはずだ。
しかもこの間の事からすると、恐らく奴らは前回のような失態を起こさぬよう、それなりの対策を講じて来るに違いない。
魔物達を殺しても何とも思わない彼らの事だ。
腹いせに彼女に大怪我でも生わせるか、最悪の場合は殺しに至る事も考えられる。
全てはあの時、自身の力の制御が出来なかったボクの責任だ。
あの時彼らを仕留めていればこんな事にはならなかった筈なのに…
「間に合ってくれよ…っ!!」
少年は全速力で森の中を駆けていく。
身に纏う
黒衣(を大きくはためかせながら、
日光(の届かない暗がりの中を。
少年の考えは正しかった。
少女に向けられていたのは銀色に輝く銃口だけではなかったのだ。
鈍く光を放っている小さな瞳が大きな白色の顔に埋まっている茶色の獣。
漆黒の細長い体躯に灰白色の紋と角が生えている目付きの鋭い獣。
その二体の敵意も小さな少女に向けられていたのだ。
知識のある少女には、その二体がどんな魔物であるのかが分かっていた。
茶色い方が"ダーテング"という森の奥深くに潜むと言われる魔物、黒い方が"ヘルガー"という灼熱の炎を吐き出すという魔物であったはずだ。
どちらもとても凶暴な性格の持ち主で、その力も並大抵の物ではない。
勿論、素手の人間が敵う相手ではなかった。
なのに、全身が震え上がり危険を避けろと叫んでいるにも関わらず、足が竦んでしまって全く動けなかった。
心の傷ついた少女には、とても大きな悲劇を思わせる瞬間となっていたのだ。
「よぉ、お嬢ちゃん。久しぶりだなぁ。」
「…あっ……あんたたちは……」
間違いなく、この間森の中で出会った密猟者の男たちであった。
真ん中に大柄な体格をした"ジンギ"という男、その両隣には"クオン"と"カイ"という男もいた。
「この間はよくもやってくれたなぁ…あぁん?」
「もう一度言ってみろよ、『あたしにはそんな武器ば通用せんかんね!」』ってな。」
二人は嘲笑を含ませた声で少女をこ馬鹿にしたように意地悪く笑う。
二人の手には真新しい銃器と鞭のような紐を手にしていた。
どうやら彼らがこの魔物達の指導者なようだ。
このままでは何時奴らが魔物をけしかけて来るのか分からなかった。
少女は震える手で高らかに口笛を吹いた。
信頼出来る
相棒(達を呼び寄せる為に。
「へっ無駄だ無駄。今更助けを呼んだって間に合いはしねぇよ。」
「あのチビどもじゃどんなに急いだかって、十数分は掛かるっての。」
男達は差ほど危機感も感じていないらしく、一向に手にしている鞭を軽くピシピシと鳴らしている。
その音が大きく響いた時、獲物を捕らえた彼らが一瞬のうちに懐にまで詰め寄って来るのだろう。
唇を強く噛み締め、地に張り付いた脚を懸命に後ろへと擦らせる。
口の中に鉄の味が染み渡った。
「…残念やけど、あたしの仲間は他にもおるとよ。」
「何っ!?」
「ふぁどど!!とろろ!!」
少女の甲高い声が森に響き渡った瞬間、少女の右手の草むらから身体を丸めて転がって来た灰色の獣が、
左手の森からは緑色の頭を持つ長く大きな首が現れた。
灰色の獣はそのまま茶色い獣へと一直線に、緑色の獣は漆黒の獣にへと向かっていく。
「行くったい!!ふぁどど!!とろろ!!」
「無駄だ!!ダーテング!」
指示を受けた茶色の獣は、自身の持つ扇のような手を大きく奮って、大量の木葉で切り付けた。
その突風と共にやってきた衝撃を受け、ふぁどどと呼ばれた"ドンファン"は大きく吹き飛ばされてしまった。
「ふぁどど!!!」
「こっちも一丁上がりだぜよ。」
その隣では、灼熱の業火を浴びせられたとろろと呼ばれた"トロピウス"が大火傷を負わされて地に伏されていた。
「とろろ!!!」
ドンファンは地の属性なので草属性の技には弱く、トロピウスは草の属性なので炎属性の技に弱いのだ。
普段なら直ぐに気付いているはずの事に目がいかなかった事実を更に思い知らされて、混乱していたとはいえ、
少女は自分の迂闊さに舌を巻いた。
今自分が此処にいることを、誰も知らない。
まだトウカの町に近い辺りだ、アチャモやココドラ達が此処までやってくるのには数分掛かるだろう。
それまで彼らが自分に危害を加えないだなんて言える訳がない。
正に絶対絶命の危機に立たされていたのだ。
「さぁ、遊びはもう終わりだ。覚悟しな!!」
銃を構えていたジンギが、その引き金を引いた。
爆発音と共に飛び出した弾丸は少女の肩を掠め、血飛沫を上げさせた。
獲物を仕留めてよいとの合図であるその鮮血の色を認めた二体が、
遂に待っていた時が来たと歓喜の雄叫びを上げながら駆け出す。
視界の端に見えた牙と爪が、光を反射してギラリと光った。
あぁ、もう駄目だ。
少女は硬く閉ざした瞳から涙を散らしながら、重力に逆らう力が残っていない身体の動きに身を委ねる。
その時だった。
高く鳴いた声が直ぐ側を通り過ぎ、辺り一帯に紅い閃光がほとばしった。
銀の銃口を向けている男に向かって、小さな小鳥は一直線に飛んで行く。
そして、少女を狙うその目を塞ごうとその小さな嘴で攻撃を開始した。
その痛さに耐え兼ねた男が両手を大きく振って、小鳥をたたき落とそうとするのだが、
ただでさえ俊敏な小鳥の素早さは"少年の魔力"の影響を受けることによって高まっていたため、
触れる事すら出来なかった。
「わっ…!!何だコイツッ!!!こらっ……止めろっ!!!!」
「ジンギさん!!!くそっ!すばしっこくて狙いが定まんねぇ……っ!!」
「……ってお前ら!どうしたんだ!!!やるんだ、あのガキをやれって言っただろうが!!!何そこでじっと……」
少女はその様をじっと眺めていた。
邪魔が入った事で、相手を観察する余裕を持たされてしまったのだ。
先程と情況は一変、少女に牙を剥けていた魔物達は命令を受けていたにも関わらず、
目の前に現れた者の膨大な魔力を身に沁みて感じ、身体を震わせながら対峙するだけに留められていた。
その魔力の持ち主こそ、少女の思い人である少年だった。
この間の疾走では息一つ乱さなかったはずなのに、今の彼の両肩は大きく上下していた。
魔力で高めた身体能力をも上回る速度で此処まで駆け付けてくれたのだ。
少女の目に、自然とまた涙が溢れる。
哀のものではなく、嬉の涙が。
「遊びにしては度が過ぎるんじゃないですか?」
鋭い形相で相手の男達を見つめ、自身の
黒衣(を右手で大きくはためかせる。
そこに生まれた空間の歪みから、灰色と桃色の獣達が飛び出した。
蒼色の獣を含めた
相棒(達が前に立ちふさがった後、少年は少女と男達の間に身を滑らせた。
後ろ手に少女の様子を確認する。
「あっ…あんた……」
「大丈夫?怪我は……少し深そうだね。」
少女の細い肩の左側から鮮やかな紅が滲み出ていた。
右手で傷口を押さえてはいるものの、その流れはとめどなく続いている。
顔に出さないようにしているみたいだが、見ていればそうとう痛いだろうことは容易に想像がつく。
少年は目を細め、唇をきつく噛み締めた。
自分がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったはずなのに。
「よぉ、この間はよくもやりやがったなぁ、坊主。」
「言っとくが、今日は前回のようにはいかないぜ。」
こっちには強力な下部がついてるからな。
そういって、自分達の前に立たせていた二匹を見せ付けるかのように嘲笑する。
今この辺り一帯は少年の
領域(になってはいるが、
相手の凶暴な二体は彼の
相棒(よりも大きな体格をしている。
いくら魔力を与えて力を高めても、それには限度というものがある。
奴らは一応それを知っているようだ。
「下部ですか…やはり貴方方は魔物達をただの道具としてでしか見ていないのですね。」
「へっ当たり前だろうが。じゃなきゃこんな危険な野郎共を側に置くかよ。」
「俺達は自分の憂さ晴らしと金稼ぎが出来ればそれでいいかんな。他に用はねぇぜよ。」
男達の言葉が耳に届く度に、少年のこめかみが震えた。
己の身勝手な欲望の為にどれだけの犠牲があったと思っているのだろうか。
「魔物は……そんなんじゃない!!!」
"彼等"を侮辱した怒りと少女を傷付けた怒りが、同時に込み上げる。
少年の瞳が怒りの色に満ち、その形相は常のものよりも数段激しくなっていた。
「貴方達の言動にも行動にも反吐が出ます。このままで終われるだなんて思わないで下さいよ…っ!」
「けっそう言うんだったら、さっさとかかって来たらどうなんだ?」
「…あっそっかぁ。確か魔力使い過ぎたらぶっ倒れるんだったなぁ、お前さん。なぁ…?"見習い魔術師さん"よぉ?」
奴らめ、あの時の屈辱に対して相当根に持ってるな。
ボクの弱点もちゃんと考えている。
魔物を使う事でこちらの魔獣達の動きを封じ、更に正常に働く分の魔力を削っていく作戦のようだ。
魔獣が敵を攻撃出来ないばかりか術者の御身を守れない、という事は奴らの銃器と戦う為にもまた魔力を使用する。
勿論、彼の実力が一人前の魔術師と大差ない事も、本来の少年の魔力が無尽蔵に近い程莫大な量である事も彼等は知らない。
だが、同時に少年に多くの封具が使われていて魔力を無理矢理に制限されている事も知らないはずだ。
あの貧血みたいな魔力不足の症状が"自分"にしか、"自分"だからこそ起こってしまう状態であるということも。
いずれにせよ、こちらが危機的情況に立たされていることは間違いない。
「さぁ、お前達!!やつらを叩きのめせぇ!!!!」
命令を受けた二体は、肌で感じる巨大な魔力に怯えて一瞬たじろいだものの、勢いよく向かって来た。
ダーテングにはNANAとCOCOが、ヘルガーにはZUZUが応対する。
肉体をぶつけ合う共闘を計る二匹と、得意の水技で灼熱の業火に対抗する獣の戦いが始まった。
じわじわと削り取られていく魔力の震えにより、全身を冷や汗が覆う。
此処に来るまでに魔力を消費していたこともあり、前回よりも"限界"が近いことが感じられた。
しかし、彼の魔獣達には決定打になるような大きな力を発する事が出来ず、
ただただ手に汗握る攻防が続いていくだけだった。
「おらおら、よそ見してんじゃねぇよ!!」
そう言った男が、背後に隠していた切り札を繰り出してきた。
その声が高らかに響いた瞬間、大きな地響きが少年達を襲った。
一体何事か、二対の瞳がその"原因"を確認しようと視線を上に上げた、その時だった。
視界に飛び込んできたのは、巨大な碧い身体に大きな赤い翼を生やした魔物。
その手足が引き起こす地響きは全ての物の動きを止め、その咆哮から繰り出される衝撃は全ての物を薙ぎ払う。
魔術師の中でも数える程しか見たことがないと言われている、言わば伝説中の魔物であった。
「こっ…これは……ボーマンダ…っ!?」
少年と少女の顔から一気に血の気が引いた。
ドウスレバ彼ノ力ニナレルノカアタシニハ分カラント…
タダ言エル事バ、今絶体絶命ノ危機ニバ晒サレテオルトイウコトダケトヨ
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この作品は原作の設定を何処まで上手く利用して引き出すかを必死こいて考えて作りました
ポケモン=魔獣、トレーナー=魔術師みたいな感じで最初案を出し、そこから今の設定を作り上げたんです
…此処でいうジムリーダーは恐らく名高い魔術師って感じなんでしょうけど、
作者自身他のジムリーダーが魔術師(またはその格好)が想像出来ないんですけど!!(笑)
少なくともミクリさんはよくお似合いだとは思いますが(苦笑)
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