The Wizards Of Silence−第十一話
噂に聞いていた以上に恐ろしい存在であった。
その細く鋭い瞳に見つめられるだけで全身に震えが駆け登る。
身の毛がよだつという事は正にこの事であろう。
書物で読んだこの魔物の特徴と言えば、大きな翼と身体を持ち、
その
魔力が龍属性だった事ぐらいであった。
否、それくらいしか記述されていないのだ。
かの者に出会った者は非常に少なく、これといって有力な
資料(が存在しない。
ただ噂として語り継がれてきた、正しく"伝説の存在"。
未知なる存在を相手に竦みたくなるのだが、彼女を守る為には意地でも此処を離れる訳にはいかなかった。
「貴方達、一体これを…何処で…?」
「ちょっとした
裏経路(でな、俺達も手に入れるのに苦労したんだよ。」
大きな碧い獣の身体には、目に見える物からそうでないものまで様々な傷痕が見える。
恐らく捉らえられてから様々な暴行を受け、
"言う事を聞かないと酷い目に合わせる"という刷り込みをされているのだろう。
元来の"彼"は大人しい性格であることは、自分の経験上たやすく判る。
しかし、今の"彼"は追い詰められた獣同然で、何時こちらに切り掛かって来るか分からない。
その攻撃を去なす事はたやすいものだが、それを一度行ってしまえば、
今度は封じられた魔力からの供給が追い付かなくなって先日の二の舞になってしまう。
それも今度は相手をしなければならない強力な魔物がまだ二体残っている。
魔力の供給を失った
相棒(達が彼等を抑えられるはずがない。
つまり、一度でも魔力を開放したが最後、命を失ってしまうかもしれないということだ。
勿論、背後に匿っている彼女もろとも…
『そんなこと…絶対させる訳にはいかない…っ!』
少年は身構える。
何とかしてこの危機を脱するのだ。
その思いだけを胸に勢い立つ。
龍属性を断つ為には氷属性の魔術が有効だ。
そして、自分の手持ちにそれを扱える"者"がいる。
だが、"彼女"を召喚するためにはNANAやCOCOを呼び出すよりも桁違いな多くの魔力を費やす事になる。
時宜(を見計らい損なえば、確実にこちらが自滅するという状態なのだ。
その時だった。
敵襲の一番背後で気配を伺っていたはずの碧い獣がこれまでにないほど大きく咆哮した。
その一声ですら地を大きく揺るがせ、足元を掬われそうになる。
「やっ……っ!!」
「くっ…何て力だ……っ!!」
耳に届く轟きは勿論、全身に響き渡る衝撃に耐え兼ねて二人は声をあげた。
そして、少年は視界の端に見てしまった。
"彼"の口元に集まる光り輝く
物体(を。
『こっ…この技は……っ!!』
間違いない。
これはボーマンダの凶暴さ所以の大技、"破壊光線"だ。
その高密度に圧縮された魔力の塊から発される衝撃波は、凄まじい破壊力を持っている。
もしこの技がこんな所で発動してしまえば、森が大きくえぐり取られてしまう。
そこに住まう魔物達もろともに。
そして、その射程圏内にいる自分も、彼女も。
発動させるのを阻止しなければ、大惨事になってしまう事はもはや確実だ。
しかし、この距離だ、それを阻止する事はもはや不可能だろう。
ならば……力付くで止めるしかない。
「COCO!!NANA!!ZUZU!!下がるんだ!!!」
少年の声にぴくりと反応を示した三匹は、それぞれが相手にしていた魔物に隙を作らせる為の一発を浴びせ、
その勢いのまま後退した。
そして主の指示通りにその背後まで下がり、少女を守るかのように並んで立った。
少年は逆に一歩前へと踏み出す。
光は段々とその強さを増して輝き始めていく。
既に常人では考えられないような力が込められている証拠であった。
あんなのをまともに喰らって無事であるはずがない。
「ルビー!!逃げるったいよ!!!」
このままでは彼まで衝撃に巻き込まれてしまう。
少女は肩に走る痛みに堪えながら精一杯叫ぶ。
だが、少年は一行にその場を動こうとしなかった。
柔らかく深い響きを持つ声音が、答えた。
「キミを置いて何処かに逃げるなんて、出来ないよ。かといって、怪我をしたキミを運んで逃げ切れるような相手じゃないしね。なら、ボクが取るべき行動は一つだよ。」
少年は両手で普段なら使わない印を結んだ。
自分の前に出来るだけ強力な結界を作る。
封具によってあのエネルギー体を吹き飛ばす力を発する事が出来ない以上、これで何とかするしかない。
此処を防ぎ切る事が出来れば、勝機はある。
"破壊光線"を繰り出したボーマンダは暫く動けなくなるはずだし、
この技は敵だけでなく味方にも
被害(を与えかねない大技だ。
技を防ぎ切った後、背後に下がらせた
相棒(達で奇襲をかけるのだ。
何れにしても、自分がこの技に耐え切らねばならない。
集まった光が、最大級の輝きを放つ。
再び身構えた少年の元に、巨大な光柱が降り注いだ。
その光景は正に、光と光が激しくぶつかり合い、眩いほどの輝きが辺りを包み込むかのようだった。
しかし、そんな輝きの綺麗さとは裏腹に、その衝突部では想像もつかないような物凄い負荷が掛かり、
その一帯の地表は吹き飛び、亀裂が走り始めていた。
怒涛の如く大きな衝撃を響かせながら、辺り一面に"大きな力"を掛け続ける"光"。
光線を結界が弾き返す音がバチバチと生々しい悲鳴を上げていた。
その狭間に位置する少年の、重く苦しげな呻きが響く。
「くっ……っあぁっ!!」
「ルビー!!!!」
「ははっ、そのまま飲み込まれちまいなっ!!」
男達は愉快だとばかりの笑みで少年を見下した。
常人から考えれば、魔物の攻撃を受け止めるどころか弾き返す事など人間が出来ることではない。
それを成し遂げる事の出来る"彼ら"は、言わば"常識の範囲"を超えた存在であった。
しかし、男達はただ自分達の勝利を確信する事のみに意識が向き、そんな"当たり前の考え"は何処かに飛び去っていた。
あの衝撃に彼が何処まで耐えうるか、そして何時飲み込まれてしまうのか。
ただその事だけに関心が向けられていた。
少年はただ己の
魔力(を振り絞り、その衝撃に耐える。
だが、その瞬間、全ての光線を一度に受けた結界は一気に軋み、発生した歪みから漏れた光線の一部が頬を掠めていった。
更に腕、肩、腹部、脚という具合に漏れ出た光線が肉体を傷つけ、地に血溜まりを形作る。
その地には抉られた傷と少年を傷つけた証である"紅"が記されていく。
そしてついに、少女の元にまでその牙が向かう。
「きゃあああぁぁぁぁああ!!!!」
背後から少女の叫び声が聞こえた。
それが更に少年の焦燥感を煽る。
必死に
魔力(を集中させるのだが、
これ以上強化させることはもはやこの状況では不可能であった。
結界は尚も軋み、亀裂により大きく歪んだ反射光を発する。
翳した掌に刻まれた傷から噴き出していく紅。
頬を掠めて過ぎ去っていく光は、破られた結界から侵入してきた光線。
指先から肩、そして全身へと伝わっていく振動は体中の間接を揺さぶり、軋みという名の悲鳴を上げさせている。
もうもたない。
少年の脳裏にそんな言葉が唐突に浮かんだ。
あちこちからギチギチという嫌な音が出て、身体を痛め付けていく感覚を覚える。
つまり、この結界が何時決壊してもおかしくはないのだ。
だが、今の彼にはこれ以上の力を注ぎ込ませる事は出来なかった。
既に"限界"が近いのだ。
結界が破られるのが先か、己の魔力の供給が絶たれるのが先か。
遅かれ早かれ、勝負は決してしまうのだろう。
『もう…駄目なのか……?』
少年が諦めかけたその時、再び耳に少女の声が耳に届いた。
「ルビー!!!」
己の事を思って嘆き涙してくれた少女。
どんなに冷たく接しようとも、笑顔を向けてくれた少女。
そうだ、例え自分がどうなってしまっても、"彼女だけ"は助けなければいけない。
人と交わる事を恐れ、心を閉ざしていたボクに優しい笑みを見せてくれた彼女を。
初めてまともに会話をすることが出来た同年代の彼女を。
初めてその存在を"愛しい"と思えた彼女を。
例えこの命に変えてでも…っ!!
少年の瞳が紅く輝きを放った瞬間、強固に張られた結界が"内側"から砕け散った。
大きな爆発だった。
そのはずだったのだが、大地は殆ど揺るがなかった。
誰もがその"奇異的な状況の有様"に驚愕し、そのまま立ち尽くすばかりだったのだ。
膨大な力が弾け飛んだその刹那、視界はあっという間に白く染まり、一瞬で何も見えなくなった。
次に現れたのは、紅。
火の粉のように小さくて軽いソレが風に舞うように無数に飛び交っていたのだ。
それが彼の身体から発された魔力の切れ端だということに気付いたのは正にその時だった。
理屈ではなく、肌で感じ取った感覚でだったのだろう。
まだ少女の思考は白濁していたので、そんな考えは回らなかったのだ。
呆然としていた彼女の視界に次に見えたのは、鮮やかな光を放つ漆黒。
それも視界全体を覆う程の"強さ"と"広大さ"であった。
それが人の髪だと気付いた時には、辺りに静寂が漂っていた。
少年の頭上には先程まであった白い帽子は存在していなかった。
その代わりに見惚れるほど艶やかな漆黒の長髪がたなびいていた。
その足元には帽子の一部として少年の魔力を封じていた黒帯が、見るも無惨な姿となって転がっている。
つまり、あの一瞬で少年は内側から自力で封印を破ったのだ。
勿論、強大な魔力を持つ彼からすれば封印を保持する事よりも破る方がたやすかったのだろう。
だが、今までそうしなかったのは、開放したが最後、
眠っていたはずである"自らが
制御(出来ない程の魔力"が溢れ出し、
予期せぬ大破壊を起こす危険があったからだ。
現に今も長い束縛から開放された魔力が彼の身体からどんどん溢れ出して、辺りを真っ紅な空間に染め上げていた。
それを必死で制しようとしている少年の顔付きは険しい。
普段なら魔力によって体温調整をされている為に現れるはずのない汗が、彼の体表を覆っていた。
その内側からの圧迫に耐えているからであろう、頬は紅潮し、息は荒々しく肩を大きく上下に揺さぶらせている。
元来鋭めの目付きであった父譲りの紅い瞳は常よりも更に険しい。
丈の長い白い帽子のせいあって、肩口で銀髪が流れているような印象を受けた少年の"真の姿"は、
それと全く正反対の色合いをした長髪をしたものであった。
しかもその丈は尋常ではないほど長い。
黒衣(のせいあってはっきりとは分からないが、
恐らく腰よりも下の位置にまで伸びているに違いない。
少年の過去を知らない男達には分かるはずもなかったが、
それはその長さに至るだけの年月魔力を常に封じて過ごして来たという現れでもあったのだ。
その変わり果てた少年の姿を認めた男たちは疎か、
背後でその様子を一部始終まじまじと見ていたはずの少女まで我が目を疑ってしまった。
姿形の大きな変貌だけでは説明の付かないような、異様なまでの威圧感。
溢れ出ている魔力が持つ重く鋭い感覚。
これが、少年の本当の
能力(だったのだ。
「そんな…嘘だろ…?ボーマンダの"破壊光線"を受けたはずなのに……」
「ていうか、あれを吹き飛ばすだけの力なんて、アイツの何処にあったんだ……?」
男達は目の前で起こった出来事に当惑し、先程まで持っていた自信は掻き消されてしまった。
いや、寧ろ少年の真の姿を目の当たりにして怖じけづいてしまったといった方が正しかったか。
何れにせよ、男達が混乱して慌てふためくのにそう時間は掛からなかったということだ。
この時、自分達が"人ならざる者"と対峙していたなどという当たり前の事など、彼らが思う隙もなかったであろう。
困惑した男達が次に取る行動など、明らかであった。
「…っおい、ボーマンダ!!もう一度"破壊光線"だ!!」
「無理だが!!一度アレを打っちまったらしばらく奴は動けねぇんだ!!」
「へっ…ヘルガー!!ダーテング!!お前達だけでも行け!!あいつをどうにかしろっ!!!」
「っおい!!ちょっと待て!!早まるなっ!!」
統領(格の男の言葉も聞かず、男はなりふり構わずに大事な攻撃要員である二匹に命令を与えた。
二匹はその命令に背きたくなるような気持ちを堪えるかのように、彼へと向かって行った。
少年は再び手を翳す。
だが、その対象は敵ではなくて味方だった。
「今のキミ達じゃあの子達の相手には役不足だね。何、
魔力(は充分にある。今から変わるのも遅くはないよ。」
いくよ、皆。
そういって少年は己の魔力を発動させた。
紋様が地を駆け巡り、魔獣達に大量の
魔力(が注ぎ込まれる。
今こそ、"進化"の時だった。
淡い光が三匹を包み込む。
「よし、COCO!NANA!ZUZU!GO!!」
少年の掛け声と共に、三匹を包んでいた光が砕け散り、そこから新たな存在が飛び出した。
COCOはエネコからエネコロロに、NANAはポチエナからグラエナに、
ZUZUはミズゴロウからヌマクローへと進化を遂げた事により、その姿形を変えていた。
「NANA、"突進"!COCO、"捨て身タックル"!ZUZU、"マッドショット"!」
それぞれの強力な技を受けた二匹は、その場に崩れ落ちた。
ダーテングは瀕死に近いダメージを、ヘルガーは泥まみれになって。
この一連の作業と動作があまりにも早かったので、男達は呆然と成す術もなく立ち尽くして見ていた。
突っ伏した二匹を押さえ付ける三匹の魔物。
その向こうに紅い火の粉を散らせながら悠然と立っている少年が見えた。
未だに魔力が安定していない為何が起こってもおかしくない、そんな状況にも関わらず、彼は笑っていた。
これまでにない程の、歓喜に満ちた笑顔を携えていたのだ。
その不気味なほどの妖艶さは、男達に更なる恐怖を与える。
爽やかな風が、少年の黒髪を大きく散らせた。
今マデ恐レ遠ザケテキタ"本当ノボクノ魔力("ガ身体中ニ満チ溢レテクル
ソレニチャント向キ合エタ事、タダソレダケナノニ嬉シサガコミ上ゲテクルンダ…
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いよいよ大詰めになってきましたね☆お陰で編集が大変です(笑)
一気に5行くらい挿入された箇所もあれば、全然全く弄ってない部分も多々ありますので、全体的には微妙なんですけどね;;
あと2話で編集が完了、その次に番外編の制作に入ります番外編が続きます
さてこの後は一体どうなるのか…!?(煩い)
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