The Wizards Of Silence−第二話
衣服を外用に着替え、少年は旅立った。
目指すは魔物の聖地、トウカの森。
任務は父の親友オダマキ氏に手紙を届けること。
「…もしかして、この中を通って行けっていうのかい?」
目の前に広がるのは大森林地帯。
己の身を覆い尽くしそうな小高い草木が、その間を縫うように張り巡らされている。
正直な話、生身で通り抜けることは極めて困難に近い。
彼は早くも前途多難な旅路になることを悟らざるを得なかった。
「…獣道って、正しくこのことを言うんだね、ZUZU。」
主のなまじ疲れた様子を見ながら、
相棒(は頷いた。
出来るだけ草木の少ない所を通り抜けてはや一時間が経った頃、
彼らはようやく少し見晴らしがよい所に出ることが出来た。
といっても、それは日光が充分に当たらないことにより、
背丈があまり伸びなかった草木が茂っている所に出たのにすぎない。
つまり、視界は先程よりも更に暗くなっていたことを意味しているのだ。
しかしあれだけ険しい道を通ってきたのにも関わらず、
少年の
黒衣(に木の葉や小枝などは殆ど付いていなかった。
勿論、これは彼が術を発動させて自然との干渉を極力避けるように仕向けたからである。
その微妙な力の掛け具合をこの年で行える彼は、そんじょそこらの魔術師とは比べ物にならない事は言うまでもない。
「随分奥まで来ちゃったけど、人っ子一人見当たらないね。…本当にこんな所にいるのかな?」
「くわっ!ずず〜」
「えっ?…あ〜確かに、そう言われればそうだよね。」
そもそもこのだだっ広い森を宛もなくさ迷っていることが間違いなのだ。
この森には"彼ら"以外の人間はいないのだから、情報収集をすれば必ず引っ掛かるはずだ。
少年は両手を
黒衣(の裾からすっと出し、さっと手を組む。
そこからゆっくりを発される光は、だんだんその
術式(を成していく。
それは一人前の魔術師ならば当然使えなければならない"召喚術"の発動を意味していた。
「時の流れは移り行けども、変わらぬその身のかっこよさ、身につけたるは疾風の逃げ足…いでよ!NANA!」
少年の手から地面へと移った光の円陣から、一匹の獣が飛び出した。
その体毛は灰色で、顔と手足の部分は黒い。
そして大きな口元からは灰白色の牙が突き出していて、瞳は朱く主の"それ"と酷似している。
ただその身の丈は50センチほどの小柄な姿なので、傍から見ると普通の子犬のように見えた。
少年は自らが呼び出した灰色の
相棒(に、
この辺りで人がいる気配がしないかどうかを尋ねた。
生きている物の探知だけならば自分の力で事足りるのだが、ここは魔物の宝庫であるトウカの森。
気配が多すぎて肝心の人物を探し出すことは困難なのだ。
NANAと呼ばれたこのポチエナという魔獣はとてもよく鼻が効くので、彼女に臭いを辿って貰えば話は早い。
主から命を受けた灰色の魔獣はその赤い鼻をヒクヒクさせながら、
この森のあちこちに漂っている臭いから特定の物を割り出す作業を始めた。
「…さて、探索の方はNANAに任せて、情報収拾はCOCOとRURUに手伝って貰おうか。」
そう言って少年は先程と同じような術式で更に二体の魔獣を呼び出す。
「いでよ!COCO!RURU!」
光と共に現れたのは桃色の猫のような姿であるエネコのCOCO、
そして頭に緑色の丸い帽子を被ったような姿をしたラルトスのRURUがその場に現れた。
少年は身体を屈めて、二匹に指示を出す。
「いいかい?COCO。キミは森の皆に此処に留まっている人間のことを尋ねてくるんだ。
RURUはその情報をボクに
精神感応(で伝えるんだ。いいね?」
二体はこくりと頷き、駆け足で森の彼方へと駆けて行った。
その背中を見送りながら少年は考える。
視線を自分が今来た道へと向け、その違和感を改めて感じた。
己の衣服にそれほど木の葉が付いていなかったのは、自然をむやみに傷つけないように干渉の術を使ったから。
だが、それにしても付着物があまりにも少ないのだ。
理由は簡単。
自分以外の"誰か"が既にこの道を通ってきたということだ。
しかし先程聞いた父親の話からすると、オダマキ博士がこの森の調査に入ってから少なくとも三ヵ月は経っているはず。
あの獣道は明らかにここ一ヶ月以内、自分の読みが正しければ二週間ほど前に出来た物のはずだ。
つまり、オダマキ博士ではない"誰か"がこの森にいるかもしれない、ということを意味している。
此処は言わずと知れた魔物の宝庫である"トウカの森"である。
人間がそう簡単にのこのことやってくる場所ではないはずなのだが。
迷い込んだにしても、その通り道からするといささか不審過ぎる。
『もしかしたら……そうなのかもしれないな。』
少年は思う。
何のためらいも無くこの森に近づく者といえば、自分のような魔術師、あるいは稀に居るとされる調教師の類。
そして、一番可能性の高いとされる残りは…
その時だ。
ZUZUのヒレがひくりと動き、NANAが何かがこちらに向かってくる気配を感じて吠えた。
少年がそれに気付いたときには背後の高木から"何か"が飛び出していて、
そしてそれが自分に向かって飛んでくることを彼が感じた時には、既に遅かった。
「…悪党めっ!かくごぉぉぉぉおおお!!!」
驚く少年の視界に亜麻色の光が見えた。
その光を纏った、木の上から飛び出した影が確実に自分を仕留めようとしている事を少年は悟る。
瞬時に身体を引くとその隙間に灰色の
相棒(が押し入ってくれたので、
彼は直撃をその身に受けずに済ませる事が出来た。
一方、こちらに向かって飛んできた相手はNANAと一撃を交えると、
そのまま後方に飛んでこちらとの距離を取った。
そして、地に降り立ったその相手を視界に捕らえた彼は、驚きで目を大きく見開く事になる。
聞こえてきた声が甲高かったのは分かっていたが、
それが自分と年端の変わらぬ女の子だなんて思いもしなかったからだ。
それもまるで原始人のように葉っぱと蔦を身体に身につけていて、それは正しく野生児といった姿。
荒い呼吸で上下に揺れる肩は細く見えるのに、先程彼女はNANAと同等の力で応対した。
一体何処からそのような力が出てくるのだろうか。
透き通るような藍色の瞳をギラギラと輝かせながら、少女は吼えた。
「さぁ覚悟しぃね。これ以上の悪行は許さんったいよ!!」
「まっ待ってくれよ!一体何のことなんだ?」
「惚けたって無駄とよ!あんたがその魔物ば使って森の魔物たちば狩っとるんは分かってるったい!」
さぁ、さっさと皆を返しぃね。
亜麻色の髪を靡かせながら、少女は更に体勢を低くして身構えた。
その尖った八重歯と爪の矛先は少年の方に向かっている。
「何でボクがそんなことしなくちゃいけないんだよ。NANAもZUZUもボクが契約を交わした
相棒(だ。誰が道具なんかに使うもんか。」
「…ぱーとなー?」
「そうだよ。それにボクはついさっきこの森に入ったばっかりだし。
第一、キミと同じくらいの年であるこのボクが、魔物を捕まえる為にわざわざこの森にやってくる訳ないだろ?捕獲道具だってないのに。」
少年の言葉を吟味するかのように聴き入っていた少女は、少年の紅い瞳を己の藍いそれでまじまじと見つめた。
そして、彼のその堂々とした態度や仕草を一通り観察し終えた後、怒りで引き攣らせていた顔を緩めた。
どうやら警戒心を解いたらしい。
「…それもそうやね。すまんち。あんたが妙な格好ばしとったったい、てっきり密猟者かと思うたとよ。」
「失礼だな。これはボクら魔術師の正装なんだよ?」
「…まじゅつし?…あぁ!魔力ば使って怪我治したり出来る人らのことやね。」
「……何か主旨が違っている気がするけど…まぁそんなとこだよ。」
「あんたぐらいの年の魔術師さんもおるんやね〜。で?こんなとこで何しちょると?」
「ん、ちょっと届け物をね。それより、さっき言ってた密猟者って?」
「最近この森ばうろついちょって、手当たり次第に魔物ばかっさらって町で売りさばいちょるらしか。あたしはそいつらを追っとったったい。」
酷か奴らったいよ。
亜麻色の髪を揺らせ、頬を膨らます少女はまだ幼い。
この年でこの森の番人でもしているんだろうか。
「銃の音ばしてからやったら奴らに追い付けんったい。せやからこうやって毎日パトロールしちょるけど、なかなか見つけられんくて…」
少女は先程とは打って変わって、藍い瞳に悲しみの色を浮かべる。
一般人は極端に魔物を嫌うものなのだが、この少女は魔物をとても大事な存在だと考えているようだ。
それは勿論、彼からすれば物凄く珍しい事であると同時に、魔物を愛する"同士"に巡り逢えた貴重な出会いでもあった。
心の内に、ふっと重たい"モノ"が積もる。
その時だ。
頭に"言葉ではない声"が響いてきたのは。
「…その心配はないみたいだよ。」
「えっ?」
「RURUからの
精神感応(だ。怪しい三人組の男が森を歩いてるってさ。」
少年は流れてくる音を聞き逃さないように、片耳を塞ぐ。
聞こえるのは魔物独特の
旋律(なので、慎重に、
そして確実にそれを聞き取って人間の言葉に
翻訳(していく。
だがそれも彼にとっては慣れた作業で、極自然にRURUと会話を続ける。
「てれぱす?あんた、遠くの声が聞こえるったいか?」
「ボクのラルトス、RURUっていうんだけどね、彼女は
念力使い(なんだ。だから互いに波長を合わせておけば5kmくらい離れても会話が出来る。」
「か〜魔術師様ってそんなことも出来るったいね〜」
「感心してる場合じゃないだろ?マッスグマの親子が追われているらしい。…こっちだ!」
行こう、NANA!ZUZU!
少年はその白い帽子の裾をはためかせるようにくるりと向きを変え、軽い足取りで森の中を駆けていく。
黒衣(の見た目があまりに重そうだったので、
まさかそんな速度で走っていくと思わなかった少女は一瞬面食らったように口を開閉させた。
「…ちょっ!あんた!待つったい!!あたしも一緒にっ!!」
少女も踵を返し、そして指を口にくわえて口笛を甲高く鳴らした。
その声に応えるように、橙色の小鳥と鋼の塊のような魔獣が草むらから飛び出してきた。
「ちゃも!どらら!行くったいよ!今度こそ奴らを捕まえるけんね!」
亜麻色の髪を乱しながら、少女も少年の跡を追って森の中に消えていった。
アタシハアタシ、ズットソウ思ッテイタ
アイツハアイツ、ズットソウ思ッテイタハズダッタノニ…
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何か微調整が出来てるんだか出来てないんだか謎ですね(苦笑)
連載時にあまり感想とか意見を頂けなかったので、手探りって感じで修正に入っているので…
そんな感じで地道な修正はまだまだ続きます(苦笑)
興味がある方は、頑張って何処に修正が入っているか探り当ててください(笑)
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